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《連載》吉成庸子物語 「どっちが悪かったのかしら?」 作/吉成庸子【2024年11月号2面】
2024-11-01
カテゴリ:コラム
好評
急に寒くなったと思ったら、次の日はすごく暑くて。洋服を着るにも迷ってしまう。
儀ちゃんは、やもめ暮らしが身についていたせいか、春夏秋冬と、下着からコートまで、虫干ししたり、アイロンをかけなおしたり、割ときちんとやっていた。こんな時、私は、たいていおせんべいをかじりながら、そばで本を読んでいたっけな。そんな私を見て儀ちゃんは必ず言ったものだ。
「お母さん、こういう仕事はほとんど奥さんがやるんだよ。あんたは何一つ手伝いやしない。今更怒ったところで、どうしようもないからじいっと耐えてやっているんだが、本当にこんな出来損ないの女房をもらってしまい、俺は泣きたいよ」と言う。「お父さん、その言葉何度も聞いたけどさ、上手な人の方がやればいいと思うよ」。私はおせんべいをかじりながら、スラっとそんな言葉を放った。
とたんに儀ちゃんのカミナリが落ちた。「上手になるために努力一つしないで、よくそんな大口がたたけるな!そういう人間は、ろくな者にならない」私は儀ちゃんの顔を見上げて言った。「お父さん、ろくな者ってどの程度の人の事を言うのか、知らないけど、私現在さあ、おとうさんの女房をやっているでしょ。正直言って、ちょっとうるさいなって困る事あるけどさ、そのほかの事は、まあまあ幸せだと思ってんの。だもの、これらからろくな者にはならないよ」。
儀ちゃんはあきれた顔をして私を見ていたが、「変な理屈ばかり並べやがって、何がまあまあ幸せだと思ってるだって? こっちの身になってみろ。我慢の連続だぞ」「ねえ、お父さん、そんなに怒らないでよ。私も一生懸命がんばって少しでもお父さんが満足するようにつとめるからね」。 私はそう答えてから、立ち上がり台所へ入った。
そうだ、せめて何かおいしい食事でも作って儀ちゃんを喜ばせてやろう。そう考えながら冷蔵庫の中を見る。 いろんな野菜がたくさん入っていた。そうだ、今夜は天ぷらにしよう。かきあげも作ろう。精進揚げしかできないけれど、熱いうちに食べればおいしいはずだもの。そう思って準備に入った。アイロンがけを終えた儀ちゃんは、そのまま庭に出てゴルフの練習を始めていた。ゴルフの練習ができる日は、一日百球は打つことにしているらしい。 練習を済ませてきた儀ちゃんに「お風呂で汗を流してからゆっくりお食事にしましょうね」と私はやさしく言った。風呂上がりの儀ちゃんが食卓に着いたとたん、私は冷やしたビールをサッとついだ。グイっと飲み干した彼は「お! 今日は天ぷらか」と喜んだ。私はちょっとコツをつかんだ気持ちがしたものだ。それでもケンカは多かった。初秋の今、月を見たりしながら、儀ちゃんが元気だった頃のあれこれが思い出されてくる。
儀ちゃんは、やもめ暮らしが身についていたせいか、春夏秋冬と、下着からコートまで、虫干ししたり、アイロンをかけなおしたり、割ときちんとやっていた。こんな時、私は、たいていおせんべいをかじりながら、そばで本を読んでいたっけな。そんな私を見て儀ちゃんは必ず言ったものだ。
「お母さん、こういう仕事はほとんど奥さんがやるんだよ。あんたは何一つ手伝いやしない。今更怒ったところで、どうしようもないからじいっと耐えてやっているんだが、本当にこんな出来損ないの女房をもらってしまい、俺は泣きたいよ」と言う。「お父さん、その言葉何度も聞いたけどさ、上手な人の方がやればいいと思うよ」。私はおせんべいをかじりながら、スラっとそんな言葉を放った。
とたんに儀ちゃんのカミナリが落ちた。「上手になるために努力一つしないで、よくそんな大口がたたけるな!そういう人間は、ろくな者にならない」私は儀ちゃんの顔を見上げて言った。「お父さん、ろくな者ってどの程度の人の事を言うのか、知らないけど、私現在さあ、おとうさんの女房をやっているでしょ。正直言って、ちょっとうるさいなって困る事あるけどさ、そのほかの事は、まあまあ幸せだと思ってんの。だもの、これらからろくな者にはならないよ」。
儀ちゃんはあきれた顔をして私を見ていたが、「変な理屈ばかり並べやがって、何がまあまあ幸せだと思ってるだって? こっちの身になってみろ。我慢の連続だぞ」「ねえ、お父さん、そんなに怒らないでよ。私も一生懸命がんばって少しでもお父さんが満足するようにつとめるからね」。 私はそう答えてから、立ち上がり台所へ入った。
そうだ、せめて何かおいしい食事でも作って儀ちゃんを喜ばせてやろう。そう考えながら冷蔵庫の中を見る。 いろんな野菜がたくさん入っていた。そうだ、今夜は天ぷらにしよう。かきあげも作ろう。精進揚げしかできないけれど、熱いうちに食べればおいしいはずだもの。そう思って準備に入った。アイロンがけを終えた儀ちゃんは、そのまま庭に出てゴルフの練習を始めていた。ゴルフの練習ができる日は、一日百球は打つことにしているらしい。 練習を済ませてきた儀ちゃんに「お風呂で汗を流してからゆっくりお食事にしましょうね」と私はやさしく言った。風呂上がりの儀ちゃんが食卓に着いたとたん、私は冷やしたビールをサッとついだ。グイっと飲み干した彼は「お! 今日は天ぷらか」と喜んだ。私はちょっとコツをつかんだ気持ちがしたものだ。それでもケンカは多かった。初秋の今、月を見たりしながら、儀ちゃんが元気だった頃のあれこれが思い出されてくる。